【雑談】そのデザイン、本当に「ダサい」のか? 〜令和6年 日本銀行券改刷〜|wachico.
デザイナーのwachico.(わちこ)です。
今回は全編主観でつらつら語るだけの雑談回です。 ……いつも通りですね(笑)
さて、去る2024年7月3日、日本銀行券の改刷──つまりお札のデザイン変更がありましたね。私も早速(とはいえ1週間ほど待ってからですが)、1枚ずつ新デザインのものを確保してきました。しばらくは大事に取っておきます。文字通り世界最高峰の印刷技術資料でもありますのでね。
※本記事で掲載している紙幣画像は、偽造防止の観点から不鮮明になる加工及び修正を入れています。
ところで、無論SNS上には新デザインについて様々な意見が飛び交っていました。ポジティブなものはもちろん、ネガティブなものもたくさん。
その中に、私のメンタルに突き刺さる一文を見つけてしまいました。個人の価値観は全くその人の自由なので否定も肯定もするつもりはありませんし、プライバシーの観点上、当該文章をそのままを載せるわけにはいきませんが、その方のご意見を端的に表すなら
──「キモい」。
つまるところ「ダサい」と。
脊髄反射で「キモいのはお前や!」とキレました。
それはもう盛大にブチギレました。
……恥を忍んで言い訳をしますと。実は私、この改刷についてはどこかで何かしら、デザイナー的アプローチで1本ブログを書こうと決めておりました(計らずもそれがこんなものに/笑)。なので事前調査のために、上記の改刷特設サイトや国立印刷局のサイトを色々と閲覧していたのです。
だからほんの片鱗でしかないでしょうが、今回の改刷にあたって信じられないくらい多くの人が携わっていて、今ある最高の技術を集め、隅々まで細心の注意を払い、文字通り死力を尽くしてこのデザインを作り上げた…ということを知っていたのです。
だからこそ、それらを冗談でも軽率に「キモい」と嘲笑う人がいることが許せなかったのです。…改刷を成し遂げた彼らの苦労を何も知らないのは、私だって同じなのに。
一時の感情にこうも容易く振り回されてしまう。やはり人間は愚か。
……まあそんな余談は置いておくとして(苦笑)、私は冷静になってからこうも思ったわけです。
──デザインにとって、本当に「ダサい」ことってなんだろう? と。
その方が言及していたのは、新デザインの「数字」にまつわることでした。
上の写真を見て頂くと、千円札と一万円札の「1」の書き方が少し違うのがわかると思います。なぜこんな些細な部分を、わざわざ変える必要があったのでしょう? その答えは、今回の改刷に込められた願い……つまりデザインコンセプトから察することができます。
今回の改刷にあたって、重視された要素のひとつは「ユニバーサルデザインの強化」です。
ユニバーサルデザインというのは、例えば「目の見えない人のために、文章に点字をつける」「車椅子の人のために、階段の他にスロープや昇降機を用意する」「外国人でも道が分かるように、ピクトグラム(絵文字や図記号など)や外国語併記を増やす」……といったことを言います。バリアフリーデザイン、とも呼ぶでしょうか。
「不自然に感じてしまうくらい大きい数字」「わざと変えた字形」……もうお察しでしょうか。そう、恐らく今回の改刷、特に「外国人のためのユニバーサルデザイン」に重点が置かれています。
私たちのように日常的に日本国内で生活していれば、千円札と一万円札のデザインがどう似ていてどう違うのか・描かれている人の顔はどんな顔で誰なのか・お札の大きさがそれぞれどのくらいか(ちなみに新旧変わらず、金額が大きいほど横幅が広いです)……といった事を学習して、事前知識を持っています。だから、多少デザインが変更されても変わらず金額ごとにお札を使い分けられます。
しかし、これから日本で生活する外国人や、近頃インバウンド需要で右肩上がりの外国人観光客にとってはそうではありません。海外旅行慣れしていない人が、海外のお札や小銭の金額がぱっと分からない、あれと同じです。
ひと目で印象に残るくらいに数字を大きくし、ゼロの数でしか判別できない金額を「字形を変える」ことで海外の方からも金額を分かりやすくしたわけです。
それに「数字が大きい」ということだけでも、単純な可読性(文字の読み取りやすさ)が向上します。実際、私の母(60代)に新千円札を見てもらったところ「文字が大きいから年寄りには見やすくていいねぇ。裏面の絵(富嶽三十六景)も綺麗だし、オシャレやん」と絶賛していました。…改刷前は気にしてなかったじゃない新デザインの事なんてあなた。
今までのデザインを見慣れている私たちにとっては、この大きな変化がかえって野暮ったいだけのデザインに感じられたのかもしれません。人間は「今までと大きく違うもの」を、即座に受け入れられるように出来ていませんから。ただ、それは同時に、今回の改刷はそれほどに思い切ったもの・大きな期待が込められたものだった……、とも言えるのではないでしょうか。
話を戻しましょう。果たして今回の改刷デザインは「ダサい」のでしょうか?
結局、最初に言ったようにそれは「人の価値観による」のですから、ダサいかもしれないし、ダサくないかもしれない。どちらでもない、でもあるでしょう。……じゃあ「ダサい」って何なの…?(以下無限ループ)
と、まあここまで来て結論出ませんでした、で終わるのはあまりにもあんまりなので……、まあ、せめて。
せめて自分は、今後も色々と悩んで悩んで、考え続けることにします。この仕事「ダサい」方向に行ってない? って。例え結果的には「ダサい」ものしか生み出せなくとも、少しは誇れる仕事にできるように。自分の生き様くらいは今までよりダサくないものにしたいと、そう強く思わせてくれるような一件でした。
それはともかく、新デザインのお札は世界最高峰の印刷技術と紙漉き技術の結晶です。シンプルに印刷物として芸術的。手に入れた際には是非一度、細かいところまでじっくりと眺めてみてくださいね!
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